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ファーマシーそま通信 2017盛夏号 前半

2017.08.20

 腸内細菌に関する最近の研究
☆うつ病患者の腸内細菌
 国立精神・神経医療研究センター神経研究所とヤクルト本社を中心とする共同研究グループは、43人の大うつ病性障害者と57人の健常者の腸内細菌について、善玉菌であるビフィズス菌と乳酸桿菌の菌数を比較したところ、うつ病患者群は健常者群と比較して、ビフィズス菌の菌数が有意に低いこと、さらにビフィズス菌・乳酸桿菌ともに一定の菌数以下である人が有意に多いことを明らかにしました。この結果から、善玉菌が少ないとうつ病リスクが高まることが示唆されました。(Jourmal of Affective Disorders on line 2016,5,24 )

 
 
 
☆腸から脳への情報伝達
腸内フローラ(腸内細菌群)から中枢への情報伝達機構は、現在もっともホットな研究領域であり、腸管神経細胞のTLR4受容体を介した神経活性化、短鎖脂肪酸によるEC細胞からのセロトニン分泌、炎症細胞応答、腸内細菌の分泌する種々の生理活性物質などの複雑な系の理解が進みつつあるようです。
 有用菌によって産生される短鎖脂肪酸の中でも、とくに酪酸には、抗うつ作用や認知機能改善作用があるようで、盛んに研究されているようです。こういった基礎研究は、消化管環境を改善し、有用菌を増加させるライフスタイルが、ストレスに強い、うつになりにくい、認知機能を維持する機能につながる可能性を示すものであり、大変興味深い点です。(資料1)
 
うつ的傾向があると思ったら、腸内細菌にも注意を向けてみてはいかがでしょうか。




☆水溶性植物繊維は有用菌のエサとなって、腸内環境を変える
 この数年の研究結果に基づいて、「善玉菌」は、食物繊維を発酵させ、短鎖脂肪酸を生成し、その短鎖脂肪酸が局所における腸管粘膜細胞の生存や機能維持に利用されているだけでなく、腸管免疫にも影響しているようです。そして、門脈を介して吸収された短鎖脂肪酸は、骨髄、脳に作用することなども解明されてきています。
 
 「食物繊維」はヒトの消化管では消化されずに、小腸を通過して大腸まで達する成分とされています。水に溶けないセルロースやリグニン、水に溶けるペクチンやアルギン酸、さらには消化されにくい性質(難消化性)を持ったでんぷん、デキストリン、オリゴ糖などの成分も含まれます。
 
 食物繊維は、まず水と結合し、便の量を増加させます。便の量が増加することは良い便を作る第一歩であり、便秘の解消につながります。さらに、便の量が増えることには有害物質の希釈作用もあります。有害物質の排出を促進することで、がんの予防、さらにナトリウムの排泄が促進されることによって、血圧を下げる作用も期待できます
 
 もっとも重要なことは、食物繊維の発酵により生じた短鎖脂肪酸が大腸粘膜上皮の栄養源となることと、短鎖脂肪酸が生成されて腸内を酸性に保ち、有害菌の増殖を抑制することにあります。食物繊維の摂取は比較的短期間に腸内細菌を変化させるとされていて、血中の短鎖脂肪酸濃度も変化します。
 この短鎖脂肪酸は、ヒトの大腸において食物繊維をエサとして腸内細菌が発酵することにより作り出されています。つまり、これまでヒトの健康増進に良いと考えられてきた水溶性食物繊維の機能の一部は、短鎖脂肪酸に関与していることが明らかになってきたわけです。
 マウスなどでは、水溶性食物繊維摂取後に食欲が抑制される点について、腸内発酵で生成した短鎖脂肪酸である酢酸が脳に作用していることが報告されています。
 
ところが困ったことに日本人の食物繊維摂取量は年々減少しており、成人の1日あたりの摂取量は15g程度に低下しています。
 1947年 27.4g → 2014年 14.2g(1日あたり)と減少し、
10代20代では10g前後と極めて少なくなっています。
 食物繊維を多く含む食材としては、野菜、芋類、キノコ類、海藻類、豆類などがありますが、洋食の普及とともにこういった食材の摂取が減少しています。(資料1)


資料1 
「消化管は泣いています」京都府立医科大学付属病院 内藤裕二著